かつてフラットレイ(Flatlay)と呼ばれる構図がインスタグラムで流行りました。平らな場所にフードやコスメなどを置いて真上から撮るスタイルです。僕たちもそれ以前から俯瞰(ふかん)の写真を日常的に撮っていたのですが、そのことが当時とくに海外のメディアに注目され、何度か記事にもなりました(こちらのリンクはベトナムのメディアです)。
俯瞰に凝っていたころ、とくに意識していたのが「余白」です。余白は人の想像欲をかき立てます。今回は俯瞰の写真を題材に、この余白を生かしたテーブルコーディネートのアイデアをご紹介します。
円卓を俯瞰で撮った自宅のダイニングテーブル
窓辺の余白を使う
こちらはジャムやバターを添えたパンの写真。レンズを引き窓辺のスペースを余白に見立てています。窓は直接写りませんが白いスペースと柔らかい明かりが、外から届く陽の光の存在を無言で語っているようです。窓辺は余白の演出に最適な場所です。
キッチンに近い窓辺にある作業台。ここでコーヒーを淹れたり軽食を用意したりします
この写真、パンやコーヒーにもっとレンズを寄せればさらに美味しそうな写真になったはずです。ですが、窓辺を写真に含めることで、単なる「食べ物の写真」から、窓辺の「風景写真」のような意味の広がりが生まれました。その風景を眺めて何を想像するかは見る人によって異なりますよね。
他の写真も見てみましょう。こちらはドライフラワーが窓辺にあります。できるだけ彩度を抑えた目立たないものを選んで主役(ジャムトースト)を引き立てています。
色とりどりのジャムをトーストに載せた一枚
俯瞰のアングルでもっとも映えるのが、器に描かれた柄です。ビンテージ食器が好きな僕たちはこの柄を撮るために俯瞰に執着してたのかもしれません。
アラビアのビンテージプレート〈Rio〉。品のあるゴールドの柄が俯瞰アングルで良く映えます
余白=白が余(あま)るように
食器が所狭しと並ぶテーブルは、少しbusyな印象を与えてしまいます。もちろん賑やかな楽しい食卓風景にはなると思います。ですが、僕たちの場合は余白を使って少し違ったアプローチをします。その例をご紹介しましょう。
上の写真はダイニングの円卓です。文字通り白が余(あま)るようなシンプルでミニマムな画面構成です。少し物足りない印象や、もっと要素を増やして賑やかなテーブルを好む方もいるかもしれません。ですが、余白の存在がかえってトーストやコーヒーをよく引立て、印象づけているのが分かると思います。
チーズケーキを印象的にみせるため、器は同系色を、カップとソーサーは、テーブルと同じ白にして、ソーサー上のケーキや注がれたカップのコーヒーが際立つようにコーディネートしています。
トレーでまとめて余白をつくる
ここまでの写真では、ある種コラージュを楽しむようにカトラリーや器を配置してきました。この章ではトレーを使って簡単に実現するテーブルコーディネートのアイデアをご紹介します。
まずはこちら。楕円のトレーに二人分のケーキとコーヒーのセットをすっぽりと収めました。これだけでテーブルはコンパクトにまとまり、かつ余白もしっかり生きています。
コーヒーブレイクのための焼き菓子とエスプレッソのセット
トレーのかたちが変わると写真の印象も変わります。俯瞰アングルをはじめてから、初めてこのことに気づきました。そして余白の存在がトレーに視線を誘います。
キッシュと季節野菜のマリネとスープのセット。トレーの形にあわせて器もセレクトしています
トレーのかたちと器のかたちを揃えるとプレート全体に一体感がうまれます。こちらは正円のトレーに丸い器をあわせました。
キッシュ、カボチャスープ、季節野菜のマリネ、フルーツ、ミニシューのプレート
採光が可能な場所があったらテーブルを移動しましょう。陽の光も余白を生かす大事な要素です。下の写真では、ブラインドから漏れる光の量を調整しながら撮っています。
ドーナツとカフェオレのトレー
構図のセオリーから余白をつくる
オーソドックスな構図のセオリーを使って余白をつくることもあります。こちらは三分割した下のラインと左のラインの交点に被写体の中心をあわせ、右上に余白をつくっています。
洋梨のケーキとコーヒー
縦横比4:3の縦長の写真は、最初ピンタレストで流行りだしたと記憶しています。スマホだと大画面でより映える比率です。この写真でも三分割法を用いています。
こちらも縦横比4:3の縦長の写真です。上の写真もそうですが四隅が見切れる具合も計算されています
オレンジと自家製コーヒーシロップのアイスコーヒー。右端はオレンジを切ったナイフの柄です
コーナーを使い余白を生む
テーブルやカウンターのコーナーを使うと自然な余白がうまれます。俯瞰アングルならではの構図の面白さがありますよね。
自宅のキッチンカウンター
明るいテーブルと暗く沈んだ床のコントラストを意識して撮っています。恣意的に余白をつくっている感じがありません。
いかがでしたでしょうか。余白は至るところで活躍します。かつてWebサイトのUIデザインに携わっていた頃、“ここは視線の休息地です”などといって相手方を説得することもありました。余白があれば埋めたくなるのがビジネスオーナーの性です。ときにはそれに抗(あらが)い、余白の存在に納得してもらうこともありました。そんなとき決まり文句のように使うのがこの「余白」というわけです。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。