コーヒーの撮影ノート|和菓子とコーヒーの撮り方

2024/04/10 14:19:11

「〇〇が9割」という本が流行ってるそうですが、普段から思うのは、写真も感覚的にはスタイリングが9割ということ。実際、撮影はシャッターを切る一瞬のできごとですが、背景選びや卓上のスタイリングは、その何十倍もの手間と時間をかけて作り込みます。

今回はこちらの写真を題材に、撮影時の記憶を呼び起こしながらスタイリングと撮影のアイデアをご紹介します。今回も撮影機材、スタイリングアイテム一覧をページの最後に掲載しています。

photo1617自宅の一室にて。細部まで計算しているため、数年前の作品ですが当時のことをよく覚えています。

スタイリング編

この時は、東海や関西では馴染みの深い「伊勢虎屋のういろ」を撮ろうということに。柔らかくモチモチとした食感と素朴な甘さが人気の和菓子です。公式ページのネットストアから取り寄せました。

photo1660色も味も異なる10種類ほどある伊勢虎屋のういろ。一押しは小豆の粒感が際立つ小倉味。

STEP1 背景を決める

主役がういろ(ういろう)に決まりましたので、次は、いつものように背景を考えます。自宅にはいくつか撮影に向いた場所があります。おおまかに、明るい場所と暗い場所とあって、今回ならどっちが合うかなと検討をはじめます。

ちなみに見ためがそっくりな和菓子に羊羹(ようかん)があります。相方の弓庭(ゆば)と違って菓子に疎い私。数少ない知識・情報量のなかからこの時、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』のことを頭に浮かべてました。羊羹の色あいを描写する有名な一節があります。

かつて漱石先生は「草枕」のなかで羊羹の色を賛美しておられたことがあったが、そう云えばあの色などはやはり瞑想的ではないか。(中略)その羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。

このことが当時どこまで影響していたかは忘れましたが、古風な和室の雰囲気が即座に頭に浮かび、暗い部屋を選ぶことに。部屋にはチークの古材を利用したテーブルと椅子数脚が置いてあり、壁には自分たちで塗った漆黒(しっこく)の塗料が一面に広がっています。

STEP2 卓上のアイテムをきめる

撮影場所が決まったので、次は卓上のアイテムを決めていきます。何気なく皿やカトラリーを選んでいるように見えて、実は僕なりの計算があります。ひとつひとつ見ていきましょう。

一人分に切って取り分けたういろは、大きいサイコロのようなかたちをしています。この四面体が自然に写るように、まずは四角い皿を選びました。丸みのある食材には丸みのある器を、角のある食材には、同じように角のある器を、が基本です。

w=2048,quality=80,fit=scale-down (1)筆者は、こういう見えない構造線をなんとなく意識しながらアイテムを選んでいます。

STEP3 小道具選びにも意味がある

さらにういろをよく見ると、断面に濃淡の違いがあり、それぞれに異なる表情があります。谷崎のいう瞑想的かどうかはさておき、この淡い陰影はぜひ写真におさめたいところです。意図的に露出アンダーめで撮ることを予想し、暗くても、ういろの表面が識別しやすいように白い皿を選びます。こうすることで、皿がレフ板のように光を反射し、ういろの側面に微かな明かりが届くようになります。

photo2962プレートは実はコーヒーカップのソーサー。ういろを照らすレフ板効果も

皿以外は、背景に溶け込むような暗いものを選ぶことにします。

_DSC9125表面がざらっとしたビンテージカップ。墨黒のマットな表面が光を反射せず、背景に溶け込みます。

2016-02-11 06.53.25-2ネルドリップ用のサーバーを代用。ほっそりと高さがあるものをあえて選んでいます(後述)。

_MG_2638カトラリー選びも細部を気にします。手持ちの中から今回はプレートと同じ白いフォークを選択

撮影場所と卓上のアイテムが決まり、ここまでに背景のイメージがぼんやりと出来てきました。ここからは、頭をスタイリングから撮影に切り替えていきます。

撮影編

この部屋の一面は掃き出し窓になっていて、足元まで陽の光が届きます。北向きのため、日中は安定した柔らかい光が入ってきます。撮影には照明を使わず、この自然光のみを使います。

STEP1 アングルを決める

当時は壁にアートをひとつ飾っていました。他に何もない壁だったので、構図の中にアクセントとして取り入れることにしました。

_DSC3927壁にかけたアート。写真は同じ部屋で撮られた別の日の写真です

カメラは卓上のアイテムと同じ目線の高さに平行に構えます。このとき、レンズは壁に対して正対させず(真正面に構えず)、気持ち窓側にむけ角度をもたせることで、構図に動きをつくります。

w=2048,quality=80,fit=scale-down右から自然光が差し込み、テーブルも右に流れるような構図に。ひとつ前のアートの写真と比べると、画面に動きがある様子がわかります。

ここからさらに全体の構図、プロポーションを整えていきます。卓上の小道具の位置も細かく調整していきます。

STEP2 目が留まる場所をつくる

まずは構図のなかに目が留まる場所をつくります。僕たちはこのことを“山をつくる”と呼んでいます。コーヒーの入ったサーバーを山の頂上に見立てて左右にコーヒーカップを配置。こうすることで卓上に安定感のある構図ができます。こんな感じです。

w=2048,quality=80,fit=scale-down (2)背の高いサーバをあえて選んだ理由が、この山を意識してのこと。山の斜面に沿うように、2つのカップの高さが収まっている点も意識しています。

ここまでで、一箇所を除き、ほぼ納得できるカットができました。撮影中、ずーっと気になっていた残りの一箇所は、アートへの映り込みです。アートには写り込んでほしくない、ベランダの手摺や隣接する雑居ビルがはっきりと写り込んでいました。これを消してみます。

STEP3 仕上げの消し込み

下の写真は、同じ部屋で撮られた別の日の一枚です。ふだん、右側の掃き出し窓はブラインドになっているのですが、外の映り込みを消すために、ときどきこのような薄いカーテンを垂らして映り込みを消すことがあります。

201911113878日差しを和らげるレースのカーテンは、ディフーザーの効果も

今回の題材の写真をもう一度見てみます。アートに映り込むカーテンの様子が分かると思います。これで完成しました。

photo1617

いかがでしたでしょうか。小道具選びも感覚に頼らず、ひとつひとつ理由があって選んでいくプロセスがお伝えできたかと思います。

最後に使用機材とアイテムリストをご紹介して、今回の解説を終えたいと思います。最後までお付き合い頂きありがとうございました。

撮影機材と各設定

  • ボディ:SonyαIII
  • レンズ:Sigma 50mm F1.4 EX DG HSM (生産終了モデル)
  • 焦点距離 50mm
  • F値 f/8.0
  • 露出時間 1/6

アイテムリスト一覧

コーヒーカップ DANSKのビンテージカップ「Flamestone」
コーヒーサーバー 三ノ輪2丁目ネルドリッパー・ハンドル付(小泉硝子製作所/写真は生産終了モデル)
白いプレート 「Marimekko Oiva espresso cup and plate, white」のプレートを小皿として使用
白いフォーク アンジェ ラヴィサントで買ったもの
和菓子 伊勢虎屋のういろ。写真は小豆の粒感が際立つシンプルな小倉味
壁のアート カフェノマのオリジナルポスター『パンケーキの朝食』
椅子 北欧家具Taloで購入した北欧ビンテージチェア
テーブル BRUNCH WORKSのチーク古材(枕木)を利用したセミオーダーのテーブル(H73cm x W145cm x D70cm)

 

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