美しさだけではないキッチンの収納

一般的に見せる収納、見せない収納というのがあると。弓庭さんもカフェノマをやってきて、そういうことを意識したり人に聞かれたりすると思うんだけど、
おもにキッチンの話でいうと、キッチンはどうしても生活感があふれる。その中で収納をどう考えてるのか、その辺りのことを教えてください。
見せる収納は、圧倒的に美的センスが必要だろうなって。それに、ひとによっては1日に何回も立って、洗ったり、焼いたり、煮たりと、家の中で1番ワサワサするところ。すべてを見せる収納にするのは、そういったことも無視できないし。
あと家電ですね。機能とデザインは、なかなか両立しないので、100%納得してないものも多いと思うんです。だから、全部見せるのは、条件的には厳しい場所ですね。
無理せず理想のキッチンを思い続ける

ときどき、雑誌で見かける見せる収納あるじゃないですか。ああいうのはどう思う?
その… やっぱり写真をパチッって撮ってる瞬間なんで、その瞬間と普段の様子には開きがあると思うんですよね。
だから… 例えば包丁をすごく美しく飾ってる方の、素敵だなと思うところは、柄のところが使い古した木だったりするんですけど。

自分におきかえると、トマト用の包丁はプラスチックの柄だったり、お肉を切る包丁と普段使いの包丁は、シリーズが揃ってないとか… 見た目がすべて好きじゃないモノもあるわけです。
だから、すべて飾れる包丁をお持ちだってこと自体すごいと思うし、なかなかそこまで到達するって大変じゃないのかなって。
キッチンって、毎日の生活がある場所だから、無理なくいかに理想に近づけるか... そこを常に考えてます。
心地よさと生活感の切り離せない関係

LDKがどんなレイアウトか説明してもらっていいですか。
マンションの占有面積でいうと78㎡くらい。ただ3LDKの所を2LDKにして広く取ったのでLDKは21畳ぐらい。いわゆる長方形の間取りじゃなく少し変形ですね。そんなに広くないキッチンがあって、キッチンとダイニングあるいはキッチンとリビングを分けるようにカウンターがあります。
そもそも何を隠すのかというと。
生活感のあふれるもの、ふーっと、くつろぎたい時に目にしたくないもの。お気に入りのカフェに座って見渡した時、自分の視界に入ってこないもの。そういうものが目に入れば、それを排除する感じです。
具体的には炊飯器や電子レンジ、色の揃ってないお鍋だったり。主に場所を占める家電ですね。あと、食器も棚の中に入ってます。

家具の話をすると、食器棚もそうなんですが、本当は大きな家具を置きたくないんですね。できるだけ設計の段階で収納スペースを確保し、その中に全部入れちゃいたいと。だから家具は極力少なくって思ってます。
家電もすべて扉の中に隠せるような家具を探し当てて、そこに収納しています。食器棚とこの家電をしまう棚は、白い素材のものなんですが、白い壁に溶け込むような効果をねらっています。
扉は内側が透けて見えるポリカーボネート製の薄いタイプ。壁のようにそそり立つおおきな家具なので、できるだけ重量感と圧迫感を減らしたくて。お皿や木の食器が透けて見えて、優しい感じになるのもポイントかもしれません。

カウンターをみると上にいろいろモノが置いてあります。
カウンターは、ソファーに座った時、キッチンの雑多な様子、生活感があふれるものが見えないようにと高くしました。キッチンで作業をする立場から言うと、生活感のあるものがすべてその中に収まってしまうということですね。

カウンター上のガラスの瓶、コーヒー豆の容器やお菓子用のケーキドームは、好きなカフェのカウンターをイメージしています。ガラスなので透けて見えながらも、やんわりともう一段、壁になるような効果をねらってます。椅子に座った人から、手元がぼんやりとして、雑多なものが目に入らないように。

キッチン全体がレンガの壁です。
むかしから家が好きで、キッチンにレンガを貼りたいという漠然とした思いがずっとありました。好きなオランダのカフェのイメージもあります。

冷蔵庫はレンガの壁に囲まれているようになってるね。
本当は見えるところに家電を置きたくないんだけど… ましてや冷蔵庫は家の中で1番大きな家電で、それをソファーの正面に置いて眺めながらコーヒー味わうっていう感覚はないんです。それは嫌だなって、ずっと思ってたんですね。
だから、理想はパントリーを作りたかった。そこに冷蔵庫、その他の家電、食材などパンパンパンって全部入れられたら、1番いいなと思ってたんです。

それが叶わなかったので… 古いレンガに囲われたら無機質な冷蔵庫が、少し優しい感じになるんじゃないかなって思って。
ついでにいうと、冷蔵庫とレンジフードをステンレスの素材にしています。これは、店厨房というか、家の生活感をすこしでも和らげるようにと、選びました。

収納もそうだけど、キッチンをよりすっきりとしつつ、心地よい空間に見せるための工夫って感じだね。今の話のように、チョイスする色や素材のこだわりは?
まとまりを出すために、まず色の数を絞った方が良いのかなって思います。例えば、キッチンカウンターの上はほとんどすべてガラス製。形は違えど、素材を揃えてるので、雑多な感じには見えないと思います。

素材でいえば、食器棚もそうですね。扉から透けて見える食器類は、白っぽいものを手前に持ってきています。色数が多くなると、雑多な落ち着かない印象になるので。
あとは暖かい雰囲気を出すために木のものもまとめて置く、そうすることで、うっすら透けてみえる表面が、やさしい感じの棚になるんじゃないかなと思って、それは意識しました。
自分のために楽しく続けるための線引

いろいろ自分に課しているというか、約束というか、自分のためだから苦にならないんだろうけど… 意外と見えないルールがあって『そこまでやるんだやっぱり!』っ思ってる人もいるんじゃないかな… だけど、本人からすると、自分が好きでやってるし、そうやって心地よく暮らせるのであれば、全然苦じゃないってことなんですよね。
そうなんです。
あの若い時にね、友だちの家にみんなで遊びに行って、6〜8畳くらいのワンルームだったんですけど、そこにお酒の瓶がたくさん並んでた。天井の電気には、すぐ手が届くように紐が付けてあって。自分はもちろんやらないけど、すごい懐かしい感じがして。このお酒の瓶に囲まれて、自分の手に届く範囲でいろいろ済ませられるこの空間は、この人にとっての落ち着く空間なんだろうなと思ってみてたんですね。
だから…
雑誌に書いてあったからとか、こうしなきゃとか言うと、途端に家をきれいにすることが義務になって楽しくなくなるので、自分の線引きはどこなのかって意識した方が楽しいというか、続くんじゃないかなと思います。
