今回の題材は、かつて入居していたアトリエの写真です。この写真も何気なく撮ったようで、実はかなり手間と時間をかけています。絵づらをじっくり考えて撮っていますので、その中身を具体的にご紹介できればと思います。この記事では次のようなアイデアをご紹介しています。

  • テーマに沿った撮影背景の選び方
  • 安定感のある構図の作り方
  • メリハリをつける小道具の選び方
  • ランプを美しくみせるアイデア

それでは始めていきましょう。

撮影テーマ

最初に今回の撮影テーマについてご説明します。

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アトリエには長さ3mほどのテーブルを2台置いていました。打ち合わせなど来客のないときは、決められたデスクを離れてこの長いテーブルへ移動し、そこで気分を変えるように仕事をしていました。このロングテーブルは相方弓庭のお気に入りアイテムのひとつです。彼女はロングテーブルのあるカフェが好きだといいます。ひとりでコーヒーを飲む人も、会話を楽しむ二人連れの人も、少しずつ間隔を空けながら他人同士が並んで座るロングテーブル。そんな風景を見るとまるで図書館にいるような落ち着いた気分になれるんだとか。すこし前に書いた本の中で次のように紹介しています。

天井が高くて薄暗い、昔ながらの図書館が好きで、機会があればなるべく訪れるようにしています。ひとつの長いテーブルに少しずつ間隔をおきながら座り、調べごとや勉強に集中している人々の姿がなぜか落ち着いた気持ちにさせてくれるのです。ロングテーブルに見ず知らずの人が集まって静かに過ごしている―これと似たような印象のお気に入りのカフェがあります(「最高の暮らしを楽しむ住まいのレシピ」エクスナレッジ)。

他人同士が囲むロングテーブルとそこで過ごす人々の気配。今回はそんな雰囲気をアトリエを使って再現してみます。

unga-cafe本の中の挿絵に使われた理想のカフェ(弓庭作)。ここにもロングテーブルが描かれています。

撮影背景をえらぶ

最初に背景についてですが、本の中の一節をさきほど紹介しました。「天井が高くて薄暗い、昔ながらの図書館」という箇所、実はアトリエにはこれとよく似た環境がすでにありました。
室内の高さは3mあり、照明を消して窓辺のサイド光をおもな光源にします。そうするとこれだけで先ほどの「天井が高くて薄暗い」空間が出来上がります。さらに窓越しには、国の重要文化財の指定を受けたバロック様式の建物が見えます。このシンボリックな建物は、いかにも「昔ながらの図書館」という風情ですよね。これを写真の中に入れてさらに雰囲気をおぎないます。

_DSC9497雪の日の神奈川県立歴史博物館。題材の写真の中では僅かに写り込んでいます。

安定感のある構図をつくる

ここからは、「図書館のようなカフェ」のような室内をつくっていきます。参照しやすいようにもう一度題材の写真を貼っておきます。

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まずカメラアングルですが、ロングテーブルは手前から奥へむかって縦一列に並べます。場所は太陽光が届きにくい右側です。こうすることで、左側の明るい窓辺と右側の暗いテーブルというわかりやすい対比関係がうまれます。下図の矢印のように写真を見る人の目線は左から右に自然に流れますから、テーブル上の様子におのずと関心が集まるというわけです。暗がりに灯るランプの存在もさらに意味をもってきます。ここは後ほど詳述します。

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明るい窓辺、暗がりのロングテーブルと大枠がイメージできたら、次はディテールを整えていきます。
テーブルの両側に購入時期も購入場所も異なるバラバラの椅子をならべ、卓上には、本を読んだりコーヒーを飲みながら会話を楽しむ人々の残り香のようなものを演出してみます。写真手前のテーブルに椅子がありませんが、ここは意図的に外しました。24mmの広角レンズを使うと、遠近感によって手前の椅子が強調され過ぎてしまったためです。

卓上にメリハリをつける

卓上の本や雑誌、コーヒーカップのセレクトも計算されています。薄暗いうえに引き気味のアングルのため卓上のものが視認しづらいですよね。沈んだ色合いの木製テーブルでもはっきりと見分けられるように、じつは白いカップや本を意図的に選んでいます。

201812105850-3カップも本も白いものを中心にセレクト。見開きの紙面も活字と写真の割合を意識しました。

この辺りからは、何度もシャッターをきり、PCモニターで絵づらを確認しながら細かく調整をしていきます。ちなみにテーブルとカメラを行ったり来たりするのは肉体的にも大変です。こんなときはカメラに触れずに遠隔からシャッターが切れるレリーズ(リモコンのようなもの)を活用します。カップの位置を直してその場でパシャリ、椅子の位置を微調整してその場でパシャリという感じです。このときは自分が写り込まないようにテーブルに隠れながらシャッターを切っていました。SONY製のボディなので、レリーズもSONYのものを使っています。生産完了品のため公式ストアで取り扱いがありません(SONY リモートコマンダー & IRレシーバーキット RMT-VP1K)。

見えない構造線を意識する

相方の弓庭と違って、私は撮影中構図のことばかり気にしています。結論を先に言ってしまえば、このとき以下のような見えない構造線を意識していたと思います。

composition

この線をすこし解説してみたいと思います。左の窓辺から右に流れる視線の先にランプを置こうと撮影中のどこかで決めました。そのランプは画面を三分割した右側のライン付近にくるようにします。構図を安定させるために、ランプと同じ高さの何かを三分割した左側のライン付近にも置きます(ライン上ではなく付近にがポイント。少しずらします)。ただしランプより目立ってはいけません。そこで、瓦でできた花瓶とドライフラワーというどちらかというと地味な組み合わせの花をシェルフの上に置きました。他にも消灯した天井のペンダントライトやアートポスターを要所に配置しています。ここもあまり目立たない色合いのモノを選びます。そしてこのとき「いかにも」な集合写真のようにならないよう、適度に見切れるようにするのがポイント。左端の枯れた枝や右端のポスターなどは画面の縁からわざと見切れるようにしています。

ランプを美しくみせるアイデア

最後にランプについて。ポールへニングセンのPHシリーズ。このシリーズ最小のテーブルランプ「PH 2/1 Table」はとても美しいフォルムのランプです。シェードが重なり合って灯りのグラデーションをつくり、ポッとした光が周囲をやさしい雰囲気にしてくれます。このシェードを白飛びさせずにきれいに見せる方法があります。このときのカメラの設定は以下の値にしてました。

  • ISO 200
  • F値 f/2.8
  • 露出時間 1/30

薄暗い室内をできるだけ明るくするためにシャッタースピードを遅くしています。光をたくさん取り込むためです。この設定で白熱灯のランプに電源を入れるとおそらく下記のように白飛びしてしまいます。

_DSC3563写真手前のシルエットがPH 2/1 Table

そこで調光可能なコントローラーを使って、できるだけランプの光量を絞ります。実物の様子をみるとほとんど光を発していないのですが、これで室内の明るさとランプの光量がバランスし、題材の写真のようにきれいなシェードのエッジが浮かび上がってくるのです。使用したコントローラーは(goot パワーコントローラー PC-40)です。

201912074032この写真も実際の室内は真っ暗です。室内がかろうじて見えるところまでシャッタースピードを遅くしています。ランプの光量はコントローラーを使って最小にし白飛びを防いでいます。

いかがでしたでしょうか。今回は撮りたい撮影テーマにむけて、いかに環境を活かしつつ、背景や被写体をスタイリングしていくか、視線の流れや目留まりに自然と沿うような構図を組み立てるかを、実際の撮影に沿って解説してみました。もう一度題材の写真を貼っておきますね。最後までありがとうございました。

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