横浜市の中心から東の方角、東京湾に臨む海沿いのエリアに、横浜元町があります。中華街も近く週末には多くのひとでにぎわう街。その中心にある商店街の片すみに、ひっそり佇むベーカリー オートウーへ、先日久しぶりに行ってきました。
「O to U」と書いてオートウー。こめられた意味は「表と裏」なんだそう。オーナーシェフ 薄井雅治さんに直接伺ったことはありませんが、意味深なネーミングにどこか哲学の香りを感じます。きっと何重にも意味があって、「ここやあそこに表と裏があるんです」と言われているかのよう。私自身オートウーを知って以来、食べるたびにそんなことを想像してしまいます。
ムラのあるグレーの壁に、3灯のライトが印象的なオートウーの店内。暖色の灯りに明明(あかあか)と照らされたパン台には、ひとつひとつ几帳面にパンが並べられています。パン台とカウンターの奥には、ガラス窓で隔てた厨房があって、こちらは少しライトが控えめ。表の明るさと裏の薄暗さ、ここにもオートウーのネーミングの意味が在るのかもしれません。
台に並ぶパンに目を落とすと、購入時、たとえば、パイ生地を使ったパンはカタチがつぶれないようプラスチックパックに入れてくれたり、スコーンは紙で包んでくれ、指先が触れない配慮があったりと、あちこちに細やかな心遣いを感じます。
今回ご紹介するパン、例えば「マッチャとカシス」、「あんこフランボワーズ」のような意外な食材、食べるまで味の想像がまったく付かない和と洋の組み合わせにも、シェフが暗に伝える「表と裏」が隠されていそうですよね。
全体に甘さ控えめなオートウーのあんこやカスタード。そんな中、この抹茶のあんこに限っては、芯のある甘味を感じます。抹茶感もしっかり広がり、ほのかに感じるカシスの酸味、全体にバランスよく調和しています。
控えめなあんこの甘さにフランボワーズのほのかな酸味。そこにパイ生地の香ばしさが加わり、絶妙に調和した未知の味が口にひろがります。そもそも、あんこと酸味の組み合わせ自体、馴染みがないのですが、これは本当に絶品。
日本人にとってパンといえば、やっぱり食パン。軽い口当たりで重すぎず、毎日食べても飽きない食パンこそ理想のパンというひとも多いと思います。シンプルにパンの生地そのものを味わいたい、そんな方にもオートウーの食パンはおすすめです。
オートウーの食パンは、粘りがあり、一口食べるとまるで米粉パンかと思うほどのもっちり感。生地がしっとりとしているので、焼かずにそのままサンドイッチにしても美味しく楽しめます。
食パンに負けない美味しさ、オートウーの他のおすすめのパンを紹介します。
見た目はエッグタルトに近いクリームパン。香ばしいパイ生地と、極限までとろとろのクリームが絶妙にマッチしています。カスタードも甘さが控えめで、パイ生地の香ばしさをしっかり味わえるちょうど良いバランス。
見た目はエッグタルトのようなクリームパン
お尻の焼きめにほど良い固さがあり、上部のソフトな歯応えの部分との食感のコントラストが楽しめます。好きなジャムやクリームと合わせても美味しくいただけそうです。
人生の最後に食べたいものと聞かれたら、迷いなくバタートーストをあげます(本音は卵がけごはんも捨てがたい..)。とくにバターが染み込んだトーストは格別です。十字に切り込みをいれ、バターしみしみの真ん中あたりをパクリ、追いジャムを塗って、バターと溶け合ったあたりをまたパクリ。そしてコーヒーをひと口。最後の晩餐なんて大げさに聞こえるかもしれませんが、個人的には、それぐらいの思い入れがバタートーストにはあるんです。
coffee & toast|シンプルがいい厚切りバタートーストの変わらない魅力
石畳がつづく元町商店街を進み、途中、角を曲がって外国人墓地へ向う坂道を少し行くと、落ち着いた雰囲気のオートウーがみえてきます。パンが好きなら行って後悔することはありません。ただし、できれば平日木曜、金曜の午前中をおすすめします(月・火・水は定休日)。次々にパンが並びはじめる午前中なら、お目当てのパンに出会えるかもしれません。
週末はにぎやかな元町も、平日の朝はしんとした静けさに包まれます。少し早めに出かけてパンを買い、他のお店が開くまで近くのカフェでゆっくり過ごすのも、元町ならではのおすすめの楽しみ方です。