ARABIA,VUOKKO(ヴォッコ)シリーズのカップ&ソーサー。
初めて手にしたとき、その見た目以上の軽さに驚かされました。ARABIAの中でも、私がもっとも頻繁に使うビンテージカップのひとつ。その理由は、シンプルなデザインと、飲み口の薄さにあります。
無駄な装飾がないデザインは一見地味に思えるかもしれません。でもそれが案外、普段遣いのカップには向いている気がします。このカップが製作された1960年代初頭、デザイナー ライヤ・ウォシッキネンさんも、当時のモダニズムの影響を強く受けたと言われています。
モダニズム
19世紀末から20世紀にかけて起こった文化的・芸術的運動。装飾を極力なくし、シンプルで明確なデザインを追求した
フィンランド語でアネモネを意味するヴォッコ。花びら一枚一枚が、スモーキーグリーンの華奢なラインで描かれています。以前こちらの記事「深い藍色の世界|Arabia アネモネの魅力」でご紹介したカップも、同じアネモネがモチーフ。ですが、パターンの筆跡を感じ躍動感もあるデザインと比較すると、こちらは静寂感のあるとても対照的な印象を持ちます。題材として頻繁に扱われるアネモネについて調べてみると、アネモネは春の訪れの象徴であることがわかりました。長くて暗い冬の後、新しい季節の始まりを告げるこの花は、希望や喜びの象徴でもあるようです。
このカップについての個人的発見は、飲み口が薄いということ。飲み口の薄いカップは、くちびるが接触する面積がちいさく、直接舌に飲み物が触れやすくなります。
このことが、とくに微細な変化を楽しむスペシャルティコーヒー、とくに浅煎りから中煎りのシングルオリジンを味わうときにとても相性がいいんです。いままでとくに深く考えてこなかったのですが、この文章を執筆するにあたり、“そういえば”と、思い当たりました。
今回ご紹介した、ARABIAのヴォッコシリーズ。シンプルなデザインと、飲み口の薄さについてお伝えしてきました。この文章を書くまで、頻繁に使う理由をあまり意識してきませんでしたが、“考えさせる前に使っている”、そのことがまさに普段遣いの理由に思えてきます。