2012年の暮れにcafenoma(カフェノマ)という屋号ではじめた創作活動。この活動も2023年、丸10年の節目を迎えました。その間1,500枚以上のコーヒーの写真を投稿してきましたが、今回はど真ん中から、映えるコーヒーの撮り方をテーマにお送りしたいと思います。
ハンドドリップは画になります。幾度かあったコーヒーブームにはなくてはならない視覚上のメタファーだったと個人的には思っています。昭和の喫茶店マスター然り、現代のカフェのバリスタ然り、コーヒーに湯を落とす立ち姿は魅力的です。ある雑誌編集者が言ってましたが、コーヒーの特集を組み取材を依頼すると、大抵の方は好みの淹れ方としてハンドドリップを希望するそうです。表紙も抽出シーンならだいたいハンドドリップというのが定番ですよね。
湯気はコーヒーのアイコン的存在です。湯の温度と気温の温度差が有ればあるほど湯気は立ちます。空気が流れると立ち昇る湯気もゆらゆらと揺れてしまいます。できるだけ窓をしめて撮影すると良いでしょう。空調もできれば切りましょう。
コーヒーは90℃前後がおいしいとされています。沸騰した湯を使って3分半ほどで抽出すると、飲む頃にちょうど90℃くらいの湯の温度になっている、ということかと思います。ところが90℃だと暖かいシーズンには湯気がなかなか立ちません。やむなく撮影のために抽出したコーヒーを沸騰手前まで温めなおす、ということもままあります(コーヒーごめんなさい)。
鮮度の高いコーヒー豆には、焙煎によって発生したガスがたくさん閉じ込められています。コーヒーに湯を落とすと、溶け出した抽出成分の隙間からガスが漏れ出しコーヒー粉が膨らみます。ハンバーグのように膨らむ姿は映えるコーヒーのハイライトのひとつ。コーヒードームを被写体に、いろいろな角度から撮ってみましょう。
湯がコーヒー豆の表面を通過すると抽出されたコーヒーがポタポタと落ちてきます。サーバーは湯通ししておくとガラスの表面が曇らずきれいに撮れます。
注ぐ様子が映えるシーンは他にもあります。いくつかみてみましょう。まずは夏の定番エスプレッソとミルクをあわせたアイスカフェラテ。冷えた氷入りのミルクに熱々のエスプレッソを注ぐのもいいのですが、注ぐ順序を逆さにし、純白のミルクが注がれる絵づらも新鮮です。
さらに、大理石のような模様のことをマーブル柄といいますが、注がれたミルクとコーヒーが混ざるマーブルも見どころのひとつ。きめ細かい鮮やかな模様にするには氷のサイズが大きすぎず小さすぎない丁度よいサイズ感にする必要があります。原理的には氷の隙間を流れるミルクのスピードをコントロールするのですが、これは撮影中何度も試行錯誤を繰り返し、好みの模様になる氷のサイズを見つけていくしかありません。
下の写真は同じアイスカフェラテをアレンジしたものです。エスプレッソを凍らせてミルクを注ぐ。これにより、味が薄まらずに濃厚なラテが楽しめます。
さて、注ぎ方についてですが、上の写真をみると注がれたミルクがアイスの上を流れる様子がわかります。このミルクがもし反対側の斜面に注がれたらどうなるでしょうか。ミルクは背面に流れますから氷上を滑るミルクの様子は写りません。この注がれる位置もしっかり計算します。
日の出のすぐ前か日の入りのすぐ後の薄明るい空は、最高の撮影背景です。それだけで魅力的な写真になる可能性が高まります。
薄明に逆光で撮るときは、ガラス製の器具やカップを使うと、流れる液体がよく見え、より効果的に雰囲気が伝わります。
少し毛色の違う話を最後に。カフェノマではコーヒーに寄った写真が実はほとんどありません。コーヒーを撮りにいかないようにしているのですが、これはコーヒーは主役ではなく脇役です、ということを伝えたいがための表現上のスタンスなのです。では主人公は何かというと、コーヒーが写り込む暮らしやその空間、つまり『間(ま)』が主(おも)だという具合です。これはカフェノマというネーミングの由来でもあります。