以前のトークの中にこんなやりとりがありました。
家の中に干した洗濯物を見ながら、“手間ひまかけて淹れたコーヒーを飲みたい気分にはならない”、ということです。(中略)いろんな場所にあるカフェの、こういうところが好きだなとか、いいなって思うところの断片を、いつも記憶のなかに集めてるのかもしれません。
弓庭は、好きなカフェを丸ごと記憶せず、いいなと思うところを断片化して、頭の中に入れてるといいます。この断片化されたカフェの記憶は、今住むマンションの間取りや内装にも活かされてるそうです。
今回は、好きなカフェを家づくりの参考にしてきた弓庭に、その取り入れ方や活かし方について、いろいろと聞いてみました。そもそもどんなカフェが好きなのか。そんなところからトークは始まります。
すごく日常的で、〈自分の居場所〉のように落ち着くことができたカフェなんです。自宅には、そこから紐づけられたものがたくさんあると思います。
そのカフェで朝食をとるために、わざわざ早起きして… ワクワクしながら、ホテルから歩いて通っていました。注文の列に並びながら、いつも決まって、BLTにするか、アボカドが入ったベーグルにするか、寸前まで迷ってたんですよね。今日はどっち食べようかなって。並んでいる時に目にする風景が、すごく好きだったなって思い出しますね。
街の中心から少し離れた所に泊まっていたので、地元の生活感あふれる様子がすごくいいなって。その中の一部になれているような気がして、なんだか心地よかったんだと思います。
馴染んでる古い感じなのかな。おしゃれなカフェという存在でもなくて。地元の人に愛されている、近所の人が出たり入ったり普通に存在してる感じがなんとなく心地よかったんですかね。
この家で心地いいと感じるのにも時間がかかる、ってなっちゃうような気がする。
壁を塗り替えたり、家具のレイアウトを変えたときって、馴染むのに少し時間がかかるじゃないですか。
自分の目指す心地いい空間、真似したい空間があるとして、そこに向かって壁をこうしましたと。だけど、1日目はこれが正解だったのかわからない。それが2、3日すると「アリかな」になって、1週間するとやっぱり落ち着くよねって。
手で塗ったラフな感じや、光が当たった時の陰影が良いよねとか、そうやって少しずつ馴染んでいく様子を受けいれていったと思うんです。
“ああ、やっぱり自分の好きな空間に近づいてってる”って実感するには、少し時間がかかるのかなと思います。うん。
小さい頃から不動産広告の間取りをみて空想するのが趣味だったり、何十年も『建物探訪』を見続けたりね。番組が早朝に移動した今でも録画して見てるし。
自分の中に蓄積されたデータベースがあるので、自分で判断が出来ると思うんですよね。でも、出来ない場合は、まずどこから始めたらいいんだろう。自分の好きを見つける旅をしないといけないよね。それをどういうふうにしたらいいのか。
ちなみに、私の場合、あそこ(の席)が空いてたらいいなとか、なんとなくあるんですよ。
なんで自分はその席に座りたいのか、なんでその席がいちばん落ち着くのか、そこに座った時に何が自分の目に映るのかとか。何を自分は好きだと思ってるのか、コーヒーを飲みながら1人でよく観察してみたら、なんか感じる、持って帰れるものがあるんじゃないかなって思うんですね。
例えば私の場合、カウンターがあったら、その端っこの席に1人で座りたいんです。あまりお店の人と視線があわないような席に座って、コーヒーとトーストを黙々と食べているぐらいが好きなんですね。放っておかれたいっていうか…
だから家には、小さくてもカウンターが欲しいと思ったし、家なのでキッチンにたてば、喫茶店のマスター役も自分じゃないですか。
座ってるのも自分だし、コーヒー淹れてるのも自分だから、そのどっちも取り入れたんですよね。
写真 構成 文:刈込 / 話し手:弓庭