コーヒーと家のことを仕事にしてから10年が経ちました。コーヒーを楽しむ〈家〉や、家で楽しむ〈コーヒー〉を、企業のみなさんと考え商品やサービスにする仕事です。
僕たちは建築家でもカフェオーナーでもないので、家とコーヒーのどちらかが欠けると仕事が務まりません。どちらか一方だけならそもそもその道のプロにかないません。コーヒーと家がセットになると相談を頂く、そんな僕たちの仕事を紹介します。
英語でコーヒーブレイクといえば、何かを中断して合間にとるコーヒーを言います。いわばリセットするときの表現として。目覚めのコーヒーという場合も、コーヒーの味よりむしろカフェインの作用を期待しているかのような響きです。目覚めのカフェインと云っても意味は通じてしまいそうですよね。
何かを始めるときの引き金のように使われてきたコーヒー。そのコーヒーの概念をスターバックスのサードプレイス(第三の居場所)は大きく変えました。〈引き金〉から〈居場所〉という、まったく異なる世界がコーヒーに見出されたように思います。
おなじ居場所でも家のコーヒーにこだわってきたのがカフェノマです。サードプレイスがスターバックスの発見なら、僕たちはファーストプレイス(第一の居場所)の再発見に勤(いそ)しんできました。ひとつひとつ解説します。
戸建て住宅やマンションなどの販売をお手伝いしてきました。新築の分譲マンションなど戸数の多いものは物件のコンセプトから手掛けます。例えば次のようなキャチフレーズ。
〜 Everyday enjoy my home 〜
このフレーズは実際のパンフレットや広告で使われました。この時コーヒーはメタファとして機能します。〈心地良さ〉や〈快適さ〉は直接語られず、コーヒーに抽象化されイメージとして伝えられます。さらにモデルルームにもコーヒーを楽しむインテリアが採用されました。内覧に訪れる来場者へコーヒーを提供しインテリアの相談会なども実施しています。コーヒーを一貫したコミュニケーションの柱にした事例です。
空間研究所の委託をうけ、住宅におけるカフェ空間の受容性調査にご協力しました。トレーラーハウス内に設えた空間に改良を重ねながら、数年間日本各地を巡り、地場の声を拾い、映像とレポートにまとめています。
調査を通じて再認識したことは、カフェのような空間であるか否かを気にする人はそもそもいないという、当たり前の事実でした。元も子もない話のように聞こえますが、カフェ的な空間は〈メタ〉であり、直接的には〈過ごしやすさ〉や〈快適さ〉が感覚を通して別の言葉で評価されるからです。そのカフェ的な空間の何が過ごしやすく、快適さを生むのか、その翻訳作業こそが僕たちの仕事でもあります。
家庭用ながら本格的なコーヒー焙煎機を、一般のコンシューマにお届けするというサービスをお手伝いしました。コーヒー豆は、グリーンと呼ばれる生豆(なままめ)に火を通して出来上がります。熱の加減を自動調整するデジタルレシピを使うことで、専門店の味を家庭でも簡単に味わえる画期的なサービスでした。専門性の高いコーヒーの焙煎ですから、高スペックな機器があるからといって、あっさり受け入れられるほど簡単な話ではありません。そもそも可処分時間の限られた日々の生活の中に、自分で焙煎する意味を見つけてもらわないといけません。そのニーズの掘り起こしからスタートした仕事でした。
いかがでしたでしょうか。コーヒーと家の、分かちがたい不可分な関係は、まだまだ暮らしの中に潜んでいそうです。その暗がりにライトを当てるように、これからもファーストプレイスの再発見を続けていきたいと思っています。今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
過去のプロジェクト:ケーススタディ