ディック・ブルーナ(1927ー2017)が暮らしたオランダのユトレヒトという街。「憧れの存在」と話す弓庭(ゆば)は、まだ存命中だった頃から幾度となくこの街を訪れてきました。
ディック・ブルーナに思いを馳せながら街を歩くのが、毎回楽しみだったといいます。今回は、そんな彼女のディック・ブルーナへの思いや、オランダの街ユトレヒトについて色々と聞いてみました。話は彼女の幼少期からはじまります。
最初の記憶は林檎のアップリケ
出会いは幼稚園児かもっと小さい頃、正方形の絵本のシリーズが家にありました。3人姉妹の末っ子なので、すでに上の2人が読んでたのか… 本が家にあったというのが最初の記憶ですね。 当時、絵本にあった林檎のイラストがなぜか頭から離れなかったんです。ある日、スカートを買ってもらうことになって。紺色の生地にリンゴのアップリケが付いたスカートを見かけて、あの絵本の林檎に似てる!と思って買ってもらった記憶があります。
|
写真左:お気に入りだった林檎のスカート
そのころはディック・ブルーナという存在よりもむしろミッフィー? |
もちろん絵本を見てたらミッフィーが出てくるので。当時うさこちゃんかな、そんな名前で絵本は出てたと思います。でも、やっぱりウサギより、(ちょっと地味な存在の)そばにいる茶色いクマやイヌのほうが好きでした。 |
グラフィックデザイナー時代
絵本も含めたら20冊以上、絵本はオランダ語で書かれたものも面白いし、表紙が好きで買ったものも。あとブルーナさん自身にスポットが当たったデザイン本など色々あります。 中でも1番好きなのは、駅の広告や本の表紙を描いてた初期の作品です。グラフィックデザイナーの時代、特にそのときの絵や色使いが好きですね。 |
ユトレヒトを訪れて
ブルーナさんが生まれ育ったユトレヒトには何回も行ってます。仕事でアムステルダムに行った際に、たぶん10回以上は。ブルーナさんが亡くなるまでずっと住んでいた街です。 |
オランダのイメージのまんまです。アムステルダムからは特急電車で45分くらい。5年くらい前かな、駅は新しくなって近代的で立派なものになりました。 |
写真:中央の高い塔がドム教会
街はオランダで一番高い教会(ドム教会)があるところで、そこを中心に街が成り立っています。古い大学もあって街並みは落ち着いていますね。もれなく運河もあって。逆に運河沿いには雑貨店、コーヒーショップが並んでいて適度な賑やか感もあります。歩いて散策するにはちょうどいい街。賑やか過ぎず、アムステルダムほど観光客が多いわけでもなく、ゆっくり歩けるなっていう雰囲気はあります。 |
ただ街を見にいってました。ブルーナさんが住むユトレヒトという街を。もちろん住所はわからないんですけど... 存命だった頃は、もしかしてこの辺をご本人が自転車で通るんじゃないかって思いながら歩いてました。 |
ユトレヒトのカフェ
ブルーナさんは、毎朝ルーティンが決まっていて、同じカフェに行って同じ席に座って、それからアトリエに行くって話を読み聞きしていたので。このカフェじゃないかなっていうとこに行って、あの... 声は掛けないで偶然お目にかかれないかなぐらいは思ってました。 |
黙々とした静かなルーティンへの憧れ
あんなにいろんな仕事をしているのに、アシスタントも雇わないでずっとひとりで仕事をしてたそうです。
アトリエに着いたらまず最初にお掃除。好きな音楽をかけながら午前中は仕事。お昼ごはんを食べにおうちに帰ってまた戻って仕事。午後は早めに仕事を切り上げて帰るという。黙々とした静かなルーティンにも、いいなって思うところがあって。ひとりで創作をしているのもすごく憧れます。
|
揺れる線の魅力
線がジガジガしてる。線がジガジガ揺れて、一生懸命描いた感が、なんだか伝わってくる気がするんです。それとシンプルなのに多くのことを感じさせる絵を描くってすごいなって。 |
味なのかな。親しみやすさっていうのか。たぶんそのジガジガにブルーナさんの個性とか思いとかが籠ってる気がするんです。定規をあてたような真っ直ぐの線って、あまり心のひだひだに引っかからない気がして。 |
ブルーナさんの企画展や商品、日本でかなり展開してますよね。ひとつ残念なのは、震える線が消えているのをよく見かけるんです。綺麗に消えている時があって、これ違うのになぁって。やっぱりそういう絵には魅力を感じないんです。 |
ときどき描いてるイラストの色使いや線に、無意識にディック・ブルーナの影響があると思ってるんだけど。どうだろう。 |
やりすぎないことを意識するとき、やっぱり思い出してますね。シンプルさで色々伝えてるブルーナさんのようなひとがいるって。ブルーナさんは、シンプルにして観る人にイマジネーション与えるのが哲学だって言ってます。 |
弓庭が描いたイラスト
どうだろうね。
お家でのこともたまに出てくるけど。ブルーナさんの生活みてると本当に家族とアトリエだけなんですよね。すごく生活もシンプル。よそに行って帰ってきたら、その場はきっと楽しまれるんでしょうけど、すごく気疲れして帰ってくる人なんだろうなって勝手に想像して。そういうところも親近感わくと言うか、いいなって思うところです。 |
写真 構成 文:刈込 / 話し手:弓庭